J.Pギルフォード博士による『知能構造論』です。
「最初に」
知能の概念はいわゆる「心の問題」です。
ですから、それが本当にそうなのかという「確証」はありません。
およそ知能の概念は、研究者による「発明」であって「発見」ではありません。
しかし、そうした概念があるのだ、という知識はあった方が良いので、参考程度に表記しています。
見えない、触れない精神世界を論じたとしても、それは科学ではありません。
また、指導は具体的行動であり、この記述が正しいとして表記している訳では無い事をご考慮の上、参考程度にご覧ください。
「知能」は、ひとつの要素から成り立っているのではなく、「知能因子」と呼ばれる複数の要素から構成されています。
この知能因子を明らかにしていくことが知能の正体を把握することにつながるわけですから、近年になり、多くの研究者たちが知能因子の分析を手がけるようになりました。
スピアマン、ソーンダイク、サーストンなどにより様々な仮説が提唱されてはきたのですが、いずれも知能の一部しか捉えていなかったり、あるいは因子の中身がきわめて抽象的であったりして、そのどれもが「知能」の全体像を明確に浮かび上がらせるにはいたらなかったのです。
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そこで、南カリフォルニア大学のギルフォード博士を中心としたグループは、知能因子を構造的に整理することで知能の正体を解明し直す研究に着手したのです 。
ギルフォード博士は、まず、知能のはたらきを大きく「思考能力」と「記憶」に分け、さらに「思考能力」を「認知」と「生産的能力」と「評価力」の三つに分類したのです。そして「生産的能力」をさらに「集中思考」と「拡散思考」の二つに分けました。
つまり、「知能のはたらき」として次の5つを挙げたのです。
(認知) (記憶) (拡散思考) (集中思考) (評価)
次に、これら5つの「知能のはたらき」は、何を材料としてはたらくか、つまり、知能がどんな種類の情報を処理するかを考え,
それらの情報の「領域」を次の4つに分類しました。
(図形) (記号) (概念) (行動)
そして最後に、ギルフォード博士は、知能が何かの情報を材料として実際にはたらいた場合、結果として出てくるものがある、と考えました。 たとえば「図形」を材料として「記憶」という「知能のはたらき」が活動した場合、「何を」記憶したのかという具体的なものがあります。この「何を」にあたる情報の性質を「所産」として次の6つに分類したのです。
(単位) (分類) ( 関係) (体系) (転換) (見通し)
つまり、ギルフォード博士は、知能が、「はたらき(Operations)」「領域(Contents)」「所産(Products)」の三面から構成されると考え、それら3面を組み合せたモデルを想定したのです。これが世界的に有名な「知能構造(SI)モデル」と呼ばれるものです。(下図をご参照ください)
5(知能のはたらき)×4(知能の領域)×6(知能の所産)=120 となり、
ぜんぶで120種類の知能因子が想定されることになるのです。
(註) 1956年に最初の「知能構造(SI)モデル」を発表してからもギルフォード博士は精力的に知能因子分析の研究を重ねて、最晩年には、180の知能因子を盛り込んだ「知能構造論」を確立しました。
★ギルフォード理論の特徴★
ギルフォード博士のこの「知能構造論」がユニークかつ画期的であったのは、スピアマンやサーストンなど、それまでの幾多の研究者たちの「知能因子」のとらえ方が単に並列的な分析にとどまっていたのに対して、ギルフォード博士のそれは、「知能」が(はたらき)(領域)(所産)の三つの側面から構成されるとし、「知能因子」を、それら3者の組み合わせとして構造的にとらえた点にあります。
上図の小さなキューブのひとつひとつが「知能因子」に相当します。
つまり、それぞれのキューブが、「どのような情報(領域)の、どんな性質(所産)を、どのように処理(はたらき)するか」という、ひとつひとつの具体的な「知能因子」として理解することができるのです。
たとえば、「知能のはたらき」の中から「認知(Cognition)」を、「知能の領域」から「図形(
Visual)」を、「知能の所産」から「単位(Units)
」を選んで組み合わせたキューブは、「図形の単位を認知する」(CVU)という「知能因子」に相当します。これは「視覚を通して形をあるがままに捉える」ということですから、たとえば幼児でしたら、〇を見て丸、△を見て三角であると理解する知能の活動に当たります。
また、「はたらき」から「記憶(Memory)
」を、「領域」から「概念(seMantic)」を、「所産」から「体系(Systems)」を選んで組み合わせたキューブは「概念の体系を記憶する」(MMS)という「知能因子」に相当します。この場合、「概念の体系」が情報の種類となりますから、まとまりのある話しや文章などがそれに当たります。ですから、たとえば人の話しを聞いてその内容を正確に第三者に伝えるときなどに活動する知能因子と言えるでしょう。
このように、ギルフォード博士の「知能構造(SI)モデル」により、知能の全体像が組織的に体系化され、また知能を構成する各知能因子がそれぞれ明確な具体性を持つようになったのです。
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それぞれの因子名について
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(図形=Visual)
図形とは文字通り形を材料とする領域です。私たちの住む世界はそれぞれのものが、それぞれの形をして存在しています。私たちは、まず形の相違で物の理解をします。〇とか□とか△とか、大きいとか小さいとか、長いとか短いとかその他さまざまな形で物の実体を捉えます。
(記号=Symbolic)
記号というのは、文字とか数字、色,マークを材料とする領域です。記号の中でもっともすぐれているは文字と数字ではないでしょうか。文字と数字が人類の進化と文化の発達にどれほど貢献したかはかりしれないと思います。 ただ、抽象化された「数」は、こどもにとって習得が困難な場合が多いようです。しかし、理解がおくれているからといってドリルなどで無理じいすると数アレルギーになりますので気を付けてください。 日常生活で「数概念」を養う絶好の条件は、食欲と結びつけることです。おやつのときにキャンディやいちごなどをお皿に等分させてみましょう。そうすると数が生きたものとして子どもに伝わります。また、遊びながらこの因子を育てていくにはゲームにまさるものはありません。 易しい段階では、双六などで数の序列と数の対応に親しみましょう。 トランプを使っての「ばばぬき」や「7ならべ」もこの因子を育む上でおおいに役立ちます。
(概念=seMantic)
概念とは、ものの名称、意味を持った言葉の領域です。概念が豊かであることは、幼児の知能教育の基礎にもなりますので、母親は乳幼児期から豊富に語りかけたり、本を読んでやったりする心がけがたいせつです。 また、言葉をあつかうこの領域は、最終的には知能を統合的にまとめあげていく中核をなすものです。 言葉は日常生活に欠かせません。 逆にいえば、この因子を刺激する材料はふだんの生活の中にいくらでもあるわけです。 原点にまでさかのぼると、言葉を充分に習得させるためには、まず耳の活動を刺激する(耳を上手に使わせる)ことが第一歩です。 耳が刺激されれば、次に目で確かめたくなり、目で見れば、今度は手でふれてみたくなるでしょう。 こうしたサイクルから言葉が習得されていくのです。 それでは、耳を上手に使わせるためにはどうしたらよいでしょう。 それには豊富な語りかけが何にもまして肝要です。 話し上手でなくてかまいません。子どもの興味、注意を喚起するよう工夫しながら、内容のある正しい言葉でゆっくり、ていねいに話しかけてやりましょう。 また、子どものの発言のひとつひとつを尊重してください。
(行動=Behavioral)
行動とは、文字通り、人の行動や動作、語調、表情、感情、意志,心理状態などを材料とする領域です。ギルフォード教育研究所所長の千葉晃先生は「知能教育のすすめ」の中で、『知能が本当に伸びるということは、幼児であればあるほど頭の使い方の問題だけですむものではありません。感動や情緒や感情などという,子どもが日頃いだく気分というものも、大切な要素です。これらの要素は、実に知能と密接に関連しているものなのです。それだけに,日常生活での心からの感動や感激を大切にしなければなりません。』と説いています。
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(認知=Cognition)
認知とは理解する、知る、意識するなどの能力です。「分かりましたか?」「はい,分かりました」 これは認知の能力です。理解、発見する能力であるこの因子が弱いと、日常生活においても、相手の話している内容がわからなかったり、物事に対する興味、積極性が欠けてしまいます。
まず、身のまわりの様々なものに目を向けさせるよう配慮してください。また、話しに傾聴する姿勢をふだんからつけておくとよいでしょう。
幼児には一つ一つを正確に認知させたいですね。
(記憶=Memory)
記憶とは、文字通り「おぼえる」と言う知能のはたらきです。経験したことを再生するこのはたらきは、早期に発達すると言われています。「記憶したことを必要に応じて再生する」ということが大切であり、「おはよう」という言葉をおぼえたオームが、午後になっても「オハヨウ」と言っているのは本当の意味での記憶にはなりません 。必要に応じて的確に再生できてこそ、記憶のはたらきと言えるのです。
覚えようという意識の強弱は当然、記憶、再生の明確さに関連します。 無意味なものをランダムに記憶するトレーニングよりも、簡単な用件を電話で親類宅へかけさせたり、園や、遊びから帰ってきたときに、「今日はどんなことをして遊んだの」と体験を整理して語らせたりする方が記憶力を豊かに育みます。 但し、あまりうるさく聞いたり、詰問調になったりすると感情を刺激しますので注意してください。
(拡散思考=Divergent
thinking)
新しいことを思いついたり、自由になめらかに思いついていく能力であり、独自性も大切な要素です。
創造性と密接に関連するこの因子は、日頃から干渉し過ぎたり、ちょっとの失敗を頭ごなしにしかったり、あるいは反対にひとつひとつの行為を過大に褒め過ぎたりすると、その成長が阻まれます。 おもちゃなどの与え過ぎも好ましくありません。
生活の場で、子どもに発言させる機会をできるだけ設け、思いつき意見を大いに認めてやりましょう。 絵本などのページをくりながら、「この次のページではどうなるんだろうね?」と、お子さまといっしょにストーリーの先を想像し合うのもいいですね。 粘土あそび、砂あそび、積木、ブロックなど、自由に取り組む中でもこの因子は活発に伸びていきます。 また、お風呂の中とか、なにかのちょっとした待ち時間を利用して、しりとりを積極的にしてみましょう。 流暢性を育みます。
(集中思考=coNvergent
thinking)
「拡散思考」とは対照的に、考えを一点に集中させて物事を論理的に推論し追究していくときにはたらくのがこの因子です。
子どもが考えたり、なにかと取り組んでいるときに「どう、わかったの?」などとせっかちに聞いたりすると、結果ばかりにこだわるくせがつき、この因子は伸びていきません。また、安直なプリント教材なども正誤にとらわれがちになり、この因子の成長を甚だしく阻みますので避けたほうが賢明です。
日頃の心がけとしては 、子どもの「なぜ?」「どうなるの?」の問いかけには、労をおしまず耳を傾けてやり、単に結論のみをあっさりと教えてしまうのではなく、結論にいたるまでの過程などをふくめてなるべく丁寧に話してやる姿勢が大切です。また、将棋、オセロ、五目並べなどは、見通しを論理的に煮つめる能力を培うのに格好のゲームですから、ある程度、力が付いてきたら真剣に取り組ませてください。この因子の成長を促進します。
(評価=Evaluation
)
自分で基準をきめて比較判断していくこの因子は、子どもの身支度などをお母さまが一から十まですべて整えてあげたり、おもちゃ、絵本などを買う際でも、子どもの希望、選択とはおかまいなしに自分だけの勝手な判断できめてしまったりすると弱くなります。 選択に手間取ったり、服装などの取り合わせが多少ちぐはぐであっても、できるかぎり、子どもに選ばせるようにしてください。 また,
こどもが判断、決定したことを安易に覆さないこともこの因子を育むためにも大切な心がけです。
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(単位=
Units)
「単位」とは知識や事物のひとつのもののことで、文字通り情報の最小単位です。〇、△、□など 個々の形は、図形の単位ですし、また、1本の鉛筆、1まいの紙、ひとりの子ども、これらは概念の単位です。アイウエオ、ABC、123といった 記号の単位もあります。
(分類=Classes)
「分類」とは単位の種類のことで、他と区別されたり類別されたものを理解する能力に関連します。鉛筆と万年筆は書く道具としては同類ですが、構造的には異質です。「分類」にはどこが似ていて、どこが異質かを類別する能力が大切です。
(関係=Relations)
ふたつの単位間に成立するものを「関係」と言います。茶碗と箸、ナイフとフォークなどは密接な関係にあります。
(体系=Systems)
三つ以上の単位の間に成立する仕組みや構造を「体系」と言います。
たとえば食卓に食器を並べるとします。ただてきとうに並べてしまうのでは、食事のときに不足のものがあったり,不便であったりするでしょう。その場合、和食であれば、飯を盛る茶碗は左に、味噌汁のお椀は右に、箸は手前にという一定の秩序があるはずです。 日本の茶道なども、所作の体系をもっとも簡素化して、相手に不快の念を与えないよう作法化したものだと思われます。 文章を書くにもこの体系の能力が要求されるでしょう。主語をどこに置くか、形容詞をどのように使うか、主張すべき点はどこでどのように述べるかは、「体系」の能力が関連します。日常生活の中でも、この体系の知能は大きな役割を担っていると思われます。
(転換=Transformations)
他のものへの変化、切り換えの能力に関連します。
子どもが折り紙やあやとりに夢中になっているときなど、「図形での転換」の能力がさかんに使われています。概念の転換」ならば、とんちやなぞなぞ遊びがこの能力を伸ばすでしょう。考えが行き詰まったときには頭の切り換えが必要ですから「転換」の能力がきわめて重要です。
(見通し=Implications)
起こり得る結果を予測したり、背後に隠れているものを推測したりする能力に関連しますから、「高度な思考」には欠かせない要素と言えるでしょう。 こどもがおもちちゃの電車で遊ぶために線路をつないでいるとします。まっすぐにつないでいくだけでは面白くありませんし、壁にぶつかってしまいます。そこであちらに回り、こちらにもどってくるにはどんなふうにつないだらいいか、結果の見通しをたてなければなりません。こんなときにはこの「見通し」の因子がはたらいでいるのです。